9月の最週末、遠野を目指して東北道を走っていた。
もうすぐ宮城と岩手の県境になる。
私は音楽を止めて、FM岩手に周波数を合わせた。
これは岩手に行くときの、お決まりのことだった。
作家でいらっしゃる、村田久さんのラジオを聞きたかったのだ。
妻が「何時やってるんだろうね?」と言った。
私の目的が分かっているようだった。
ラジオの番組名は「野遊び倶楽部 イーハトーヴ」」だ。
私達は、放送日時を知らなかった。
インターネットやらで調べれば直ぐに分かることなのに、ついつい忘れてしまっていて、結局、いつも見当違いの時間にFM岩手を聞いていた。
深夜、東北道の「東和IC」に着いた。
今日は、近くの道の駅で車中泊だ。
「今日も聞けなかったね」眠りに着く前に妻が言った。
「明日は御本人に会えるんだから」、二人で笑った。
早く会いたいね、緊張するね、などと言いながら眠りについた。
そう、今回の旅の目的は、村田久さんに会うことだった。
前回の遠野の旅で「民宿わらべ」の御主人から、次の週末は村田さんが来ると聞いた。
毎年、9月の終わりに恒例の催しがあるという。
それは、故「芦澤一洋」さんと親しかった人達が、村田さんと共に「民宿わらべ」に集まる会だ。
今回は、その会に参加したくて遠野へ来たという訳だ。
しかし、困ったことがあった。
私達は、芦澤さんとの面識が無かった。
なのに、いきなり参加して大丈夫だろうか。
少し心配だった。
うとうとと、眠りかけながら昔のことを思い出していた。
亡き父が末期癌で入院していたころ、芦澤さんについて少しばかり話をしたことがあった。
山梨の病院で外出することも出来なかった父。
さぞかし暇だろうと思い、私は、見舞いに行く度に、父の大好きだった釣りの話をした。
今日は小菅村へ行って良型のヤマメが釣れたとか、妻も釣りを始めたとか、私が身振り手振りで話をすると、父は魚の写真を見ながら嬉しそうに聞いていた。

ある時「フライフィッシングって言えば、鰍沢出身の有名なやつが居たなあ」と父が言った。
その時は、誰のことなのか分からなかったが、後で芦澤さんのことだと分かった。
父は、鰍沢町の隣の増穂町出身だった。
もしかすると、芦沢さんと父は、富士川辺りですれ違っていたかもしれない・・・
そんなことを思っていた。
朝、目が覚めると外は気持ちのいい青空だった。
遠野の里川で妻と竿を振った。
秋色のヤマメや逞しいイワナが何匹か釣れた。
久しぶりの妻との釣りは、やっぱり楽しかった。
夕方、「民宿わらべ」へ入った。
弐代目御主人が出迎えてくれた。
「もう、ぼちぼち始まってますよ」と、村田さん達が到着していることを教えてくれた。
急いで荷物を部屋へ運んだ。
程なく「村田さんが呼んでますよ」と、わらべの御主人が教えてくれた。
「えっ」動揺した。
いざとなると不安と緊張が増してきた。
おどおどと、村田さん達が集まっている炉辺へ向かった。
村田さんとお仲間の方々が見えた。
村田さんの前にはマイクが置かれていた。
「ささ、ご夫婦、こちらへ座って座って」村田さんのほうから話し掛けてくれた。
どぎまぎしながら「始めまして」と挨拶をした。
すると、こちらの緊張が伝わったのか「今日は、どうぞ安心して参加してください。皆、気さくな人達ですから」と言ってくれた。
そして、今から「野遊び倶楽部 イーハトーヴ」の収録をすると言った。
私達も特別ゲストという形で出演してほしいと依頼された。
正直、面食らった。
村田さんに会えただけでも嬉しいというのに・・・
「え、え、どうしよう」少しの間、妻と顔を見合わせていたが、有難く御好意をいただく事にした。
村田さんを囲む、十人程の輪に混ざって座った。
収録が始まった。
「今回は、遠野にあります、民宿わらべ からお送りしたいと思います。毎年、9月の終わりに、亡くなった芦澤一洋さんを偲んで、親しかった人達が此処に集まって楽しく飲んで、食べて、という会を行っているのですが・・・」村田さんの語りが続いた。
どきどきしながらも、わくわくしてきた。
「今日は、東京からお越しの御夫婦が、特別ゲストとして参加していただいております」と、私達の紹介が始まった。
マイクがまわってきた。
自己紹介をどうぞと言われた。
緊張しながら、私と妻が簡単に自己紹介を済ませた。
不意に「奥さん、釣りはどうですか?旦那さんは、優しく教えてくれますか?」村田さんが妻に聞いた。
妻は「最初のうちは優しく教えてくれるんですが、主人がなかなか釣れない時や、私が思うように投げられてなかったりすると、たまにイライラされちゃうんです。だから、主人に、早めに大物が釣れてほしいと思いながらやってます」と、笑みを浮かべながら答えた。
ワッと、その場に笑いが起こった。
楽しい収録が続いた。
収録後、食事会が行われた。
民宿わらべの、いつもの美味しい料理がテーブルに並んだ。
集まった方からの差し入れで、三陸産の新鮮なマグロの刺身もあった。
食卓は豪華だった。
皆で食事をしながら、村田さんの話に耳を傾けた。
聞きたかった。これを待っていた。
「昔、芦澤君と出会った頃、僕は手拭で頬被りをして釣りをしてたんだよ。すると「村田さん、その格好はないよ」って彼が言うんだよ。僕は、何も服装なんか格好つけなくたって、て思ってたんだ」
芦澤さんとの思い出話が始まった。
私は、食べるのを忘れて聞いていた。
「でも、彼と釣りをしていくうちに、彼の魚に対する愛情とか、自然に対する尊敬の念だとかが、僕にだんだんと伝わってきて、あ、正装して釣りをするってことは、魚に対する、釣りという行為をするときのエチケットなんだ!って思うようになったんだよ。」
皆、うんうんと、何度も頷きながら聞いていた。
「そんな風に感じ始めた頃、彼が帽子をくれたんだ・・・」
ハッとした。
いつも村田さんが被っている帽子、雑誌のエッセイと一緒に描かれている帽子は、芦澤さんからの贈り物だったんだ。

うっとりとした気持ちになった。
素敵な話だと心から思った。
楽しい宴会は、深夜まで続いた。
ゆったりとした時間の流れと共に、村田さんの楽しい話が続いた。
ここに居る幸せを実感した。
来年も、再来年も、ずっと参加したい。
そう思った。

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9月の終わり、一人、遠野の渓を釣り上がっていた。
秋晴れと言うに相応しい、気持ちの良い青空だった。
森は、所々、黄色や赤色に染まり始めており、目の前の川面に垂れ下がっている木の枝には、大きな毬栗が鈴なりに生っていた。
森は秋を告げていた。
どうやら先行者がいるらしい。
川縁の砂地には、真新しい足跡が幾つもべったりと残っていた。
それでも、二度、三度、小さなイワナが相手をしてくれた。
そろそろ大きなヤツに会いたくなってきた。
随分歩いた。
足が疲れてきた。
大きな岩がごろごろとした流れを抜けたところで一休みにした。
「民宿わらべ」で貰った、おにぎりを頬張り、沢庵を齧った。
足跡の主は何処まで上がるのだろう、正直、憎たらしい気持ちで上流の瀬を見つめた。
すると、瀬の開きで水面に波紋が広がった。
落葉かと思ったが、暫くすると、また波紋が広がった。
魚だ。
急いでもう一つのおにぎりを頬張り近寄った。
ゆっくりと慎重に近づき、波紋のあった辺りを見渡すと、八寸程のヤマメが泳いでいた。
ゆったりとした仕草で、水面の小さな川虫を食っている。
ふわりと毛鉤を投げ込んだ。
ヤマメはゆっくりと毛鉤に近づいてきた。
「食え」私は、いつでも掛けられるように身構えた。
しかし、ヤマメは毛鉤の寸前で引き返していく。
何度か試してみたが、だめだった。
持っている毛鉤を片っ端から試してみた。
糸も細いやつに替えてみた。
何が気に入らないのか。
とうやっても食ってくれなかった。
悔しかった。「釣れるまで」と意地になっていた。
春先に使う、小さな毛鉤を取り出して糸に結んだ。
これならどうだ。
すると、そのヤマメは、さっきまでの猜疑心が何処へいったのか、躊躇無く、小さな毛鉤を飲み込んだ。
この一匹で十分な気持ちになった。
陽が傾いてきた。
時計を見ると3:00 PMになっていた。
竿を振りながら、上流を目指した。
川の流れは、右に左に、緩やかに曲がっていて、いかにもヤマメが居そうな平瀬が上流まで続いていた。
ひらすら流芯脇を狙って毛鉤を流していった。
ヤマメが出てこないか、そう思いながら釣り上がっていた。
すると、いきなり、ガバッと来た。
流芯から、大きな魚が毛鉤をさらっていった。
ハッして竿を跳ね上げた。
ググン、ググンと強い引きが手首に伝わってくる。
何度も何度も瀬を走り回った後、ようやく魚が浮いてきた。
銀色に光る魚の腹が見えた。
ヤマメだ。
しかも、とびきりでかい。
体が熱くなった。
尺ヤマメだった。
何枚も、何枚も、夢中で写真を撮った。
素晴らしい。
婚姻色を纏った、完璧な秋ヤマメだった。
もう十分に満足だった。
川から上がって、宿を目指した。
舗装された道に出ると、老婆が道の脇にいた。
中腰で、仕切りに地面を見ている。
何かを探しているようだった。
「こんにちは、何かお探しですか?」話し掛けてみた。
老婆は、ゆっくり振り向くと、「こんにちは、いや、栗さ拾っでだとこです。」と答えた。
「栗、落ちているんですか?」と聞くと、「ほれ、いっばいだ」と前掛けのポケットから、拾った栗を取り出して見せてくれた。
「こりゃあ、意外と味もいいんだ、今日食べっがど思っで」と言って、その老婆は恥ずかしそうに笑った。
暫くの間、私も一緒になって栗を拾った。
「なんでえ、わりいねえ」と言いながら、老婆はずっと笑顔だった。
私も笑顔だった。
幼いころ、亡き祖母と一緒に、近所の叢でヨモギ取りをしたことを思い出した。
なんだか懐かしくて、懐かしくて、その老婆を「おばあちゃん」と呼びたくなった。
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今年は夏らしい夏がなかった。
9月に入ったとたん、街は秋の気配がしてきた。
私は、電車へ駆け込む様に、過ぎ去ってしまいそうな夏を追いかけて、また、遠野に来ていた。
空は高く、気持ちの良い秋晴れだった。
ブナやミズナラの森に囲まれた流れの中で、妻が竿を振っていた。
「上手くなったなあ」そう思って見ていた。

以前、実家のある山梨の川で、高校生になった甥っ子にフライフィッシングを教えたことがあった。
楽しかったようで、バイト代を貯めて、こつこつと道具を揃えたとメールが届いた。
そんな連絡もあって、先月、遠野に連れて行ってやった。
久しぶりの男二人旅だった。
遠野への道中、子供の頃の遊びについて話をした。
街中で育った甥っ子は、専らテレビゲームが遊びだったようだ。
中でも通信対戦に夢中になったようで、楽しそうに話をしていた。
私も、小学校高学年の頃は、テレビゲームに夢中になったが、もっと幼い頃は、近所の池や沢で煮干を餌にザリガニを釣ったり、沢蟹を採っては遊んだものだった。
台所から煮干をくすねるときは、何故かワクワクしたのを憶えている。
そして、たまに行く父との釣りが、一番の楽しみだった。
しかし、考えてみれば、今の時代、近所にそういう場所があることは稀だ。
そう思うと、甥っ子が少し可愛そうな、そんな気持ちになった。
「でも、フライフィッシングはいい趣味になるかも!」甥っ子が言った。
嬉しくなった。
実は、私には密かな目論見がある。
それは、甥っ子に毛鉤釣りを教えれば、私の息子と三人で楽しめる。
そして、私が忙しくて釣りに行けないときは、甥っ子が私の代わりをしてくれる筈だ。
と、まあ、まだ、授かってもいない息子の為にいろいろ考えているわけだ。
捕らぬ狸の・・・とは、このことだ。
妻の竿が曲がった。
水面をバシャバシャと魚が躍っている。
丸々とした美しい雌のイワナだ。
腹の辺りが膨らんでいて、抱卵しているようだった。
妻も私も満面の笑みで眺めた。

程無く、私の竿も曲がった。
婚姻色の入った雄のヤマメだった。
美しい。

この渓魚達も、次の世代の準備を進めている。
空を見上げると、数え切れないほどのアキアカネが舞っていた。
民宿わらべ 参代目誕生、心より祝福いたします。
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先日、竿の先を折ってしまった。
引っ掛けた毛鉤を無理に取ろうとして、やってしまった。
次の日、早速修理に取り掛かった。
折れた箇所を斜めに削り、スレッドで巻きとめて接着剤を塗った。
思いのほか綺麗に出来た。
竿先を曲げて確かめてみる。
大丈夫そうだ。
子供の頃、夏休みになると、亡き父に連れられて釣りに出掛けた。
山梨県の峡北地区が主な釣り場だった。
8月の暑い日、平瀬の川縁で父と一緒に餌釣りの仕掛けを作った。
蝉が煩い程、鳴いていた。

父が糸を垂れると、程なく竿が曲がった。
私も少し下流で、真似をしながら仕掛けを流した。
しかし、いくら流しても父の様には釣れなかった。
少し深みのある、石の横の流れを流すと、ククンと浮きが止まった。
きたっ!と思って目一杯、長竿を引き上げると、竿の先がポキンと折れてしまった。
糸や針が石に絡まったからだった。
私が途方に暮れていると、父が近寄ってきた。
「どれどれ・・・」と言いながら折れた竿を手にした父は、腰の鞄から釣り糸を取り出した。
そして、折れた箇所を少し重ね合わせると、その釣り糸でくるくると強めに縛り始めた。
器用に繋ぎ止めると、接着剤を軽く塗って、竿先をグイっと曲げて見せた。
「ほれ、直ったぞ!」
「凄い!」私は、尊敬の眼差しだった。
父も嬉しそうだった。
夕方、上流の大場所で綺麗なアマゴが釣れた。
直した竿は折れることなく、しっかりとアマゴを引き寄せてくれた。
父と笑いあった。
楽しかった。
9月の初旬、私は福島へ向かった。
直した竿を早速試したかった。
いかにもヤマメが居そうな流れに毛鉤を浮かべると、ボコっと毛鉤が消えた。
強い引きが大きい魚であることを教えてくれる。
二、三度走り回った後、ようやく手元に寄ってきた。

31cmもある大物だった。
ヤマメを眺めながら妻と笑いあった。

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8月の最週末、山形へ向かった。
久しぶりの、気持ちの良い夏空だった。
林道から見える渓はとても深く、入渓出来る場所がなかなか見当たらない。
所々、路肩が崩れていたり大きな窪みがあったりして、私は、おっかなびっくり、そろそろと車を進めた。
やっとの思いで渓底に下り立つと、美しい清らかな流れが山奥へと続いていた。
今日は、以前からやってみたいことがあった。
それは、釣った魚を川で食べることだ。
何時だったか、会社の部下から「ヤマメとかイワナって美味しいんですよね?」と聞かれた。
「勿論だよ!」と答えたが、実際のところ、釣った魚を自分で捌き、そして食べたことはない。
そのことが、何時からか気に掛かっていた。
そんな折、ある雑誌で、こんな文章を目にした。
「毎年一尾だけ、自分で釣った魚を河原で食べる。感謝の気持ちを込めて・・・」
なにか、大切なことを忘れていた気がした。
竿の準備をしてから、渓に深く一礼をした。
そんな気持ちになった。
釣り始めると、今日はなんだか調子がいい。
大きなイワナがゴロゴロと釣れる。
殆どが9寸イワナだ。
そして、大きな岩がある渕で見事な尺イワナが釣れた。

昼過ぎ、最後と決めた場所で丸々と太ったイワナが釣れた。
このイワナにしよう。
私は、そのイワナを静かに抱えて網に入れた。
暫く歩いた。
網の中のイワナが静かになっていくのが分かった。
脱渓場所の川辺で、私は小さなナイフを片手に立ち竦んでいた。
イワナは既に死んでいた。
暫く躊躇をしていたが、自分が命を奪ったのだという現実が、ちゃんと食べてあげようという強い気持ちを生んだ。
そして、イワナの喉元へナイフを差し込んだ。
初めてにしては、うまく捌けた。
川と捌いたイワナに向かって、もう一度、深々と一礼をした。
車に戻り、イワナを焼くための広い河原を探した。
林道を下っていると、藪から大きな黒い物が飛び出してきた。
「熊だ!」
急ブレーキを踏みながら思わず叫んでしまった。
ほんの一瞬の出来事だったが、あまりの驚きと、その大きさに度肝を抜かれた。
妻は大きなぬいぐるみの様だったと言ったが、私は暫く生きた心地がしなかった。
熊が怖くて、大分下流へ下った。
すると、魚を焼くには御誂え向きの場所が見つかった。
しかも、ご丁寧に焚き木をした石組みまであった。
火を熾し、イワナに化粧塩をして焼き始めた。
香ばしい焼き魚の匂いがしてきた。
一時間ほど掛けてじっくり焼き上げた。
妻と二人「いただきます」と手を合わせてから、岩魚にかぶりついた。
「美味しい!」そう言って、二人とも目をまん丸にした。
口の中にいい香りが広がった。
遠くで蝉が鳴いていた。

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7月15日
民宿「わらべ」に着いたのは夕方だった。
他の釣り客は、まだ川から上がっていないようで、夕方の宿は静かだった。
部屋でくつろいでいると、「ご飯が出来ましたよ」と御主人の声が聞こえた。
隣の部屋から「はーい」と女性の声が・・・
私たちと同じ、釣り夫婦でも居るのかな?そう思った。
食堂に行き、いつもの美味しい夕食を頂いていると、50代位の男性と、先ほどの声の主と思われる若い女性が隣のテーブルについた。
私達は、「今晩は」と軽く挨拶を交わした。
その二人は、親子のようにも見えたが、聞こえてくる会話には、時折 敬語が入っており、部屋も別々のようだった。
釣り人ではないようで、なにかの「踊り」について熱心に話をしていた。
なんとなく、話し掛けられずにいた。
翌朝、朝食を食べに食堂に行くと、昨夜の男性と女性が隣のテーブルに居た。
「おはようございます!」と挨拶を交わした後、男性が「釣りですか?」と話し掛けてくれた。
「ええ」と返事をすると、「そうですか、いいですねえ」と言った後、「私は釣りじゃないんですけど、東京から来たんですよ」と話し始めた。
聞けば、この男性は、毎年7月17日と18日に行われる「早池峰神社例大祭」に神楽の演者として参加しており、一緒にいる女性も共演者だという。
「道理で・・・」昨夜のことを思い出した。
そして、明日の夜には周辺の神楽衆が集まり、1,200年の歴史を誇る早池峰神社で素晴らしい舞が奉納されるのだと教えてくれた。
私と妻は、必ず見に行こうと話し合った。
朝食を終え、私達はとある川へ向かった。
昨年、尺イワナが連発した川だけに期待が膨らむ。

入渓早々、綺麗なヤマメ、そして逞しいイワナが出迎えてくれた。
好反応で、なかなか先に進めずにいたが、昼過ぎにようやく核心部へ到達した。
竿が一本ようやく振れるという程、木々が生い茂った流れの先を眺めると、ゆらゆらと大きな魚が数匹見えた。
妻と交代で狙ってみるが、なかなか思うように竿が振れず、直ぐに木の枝に毛鉤を引っ掛けてしまう。
「ああ・・・」妻が残念そうに、引っ掛けた枝を見ている。
私は、妻の竿を持ち、魚に気付かれない様、ゆっくりと毛鉤に近づいた。
糸をリールに仕舞って、竿先でそっと毛鉤を揺らすと意外と簡単に取れた。
よかったと安堵していると、竿先の奥で何か黒い影が揺れているのが見えた。
ハッとした。大きなイワナだった。優に尺を超えている。
しかし、とても竿を振れる場所ではない。
一寸の間考えて、一か八か、提灯釣りを試してみる。
イワナがいる横の、ほんの少しの狭い場所、そこに毛鉤を流してみる。
すると、スーとイワナが寄ってきて、大きな口を広げた。
後はもう、無我夢中だった。

35cmもあった。
翌日、遠野を離れて気〇川の支流に入った。
魚影が濃く、思う存分、魚と遊ぶことが出来た。
今日は例大祭を見に行こうと決めていたので、夕方前に川を出て6:00PMには宿に戻った。
宿がある大出の集落には、細い道の脇に観光バスが何台か停まっていて、これから祭りが始まることを窺わせた。
祭りが始まるまで少し時間があった。
「宿前の瀬を少しやってみようか?」私は妻に言った。
暫くして、「バシャッ、バシャッ」という音が聞こえてきた。
音の方を見ると、妻の竿が今までに見たことがないほど曲がっていた。
そして、泳ぎ回る魚を見ると、ナマズの様な魚体が見えた。
「でかいぞ!でかいぞ!」私は思わず声を上げていた。

なんと、37cmだった。

無事に生き残ってほしい・・・
そして、私にも・・・

33cm
もしかして、わらべの弐代目御主人が釣ったイワナと同じでは?
私も妻も大満足で竿を畳んだ。
早池峰神社の前まで来ると、太鼓や笛の音が聞こえてきた。
夏祭りにしては、やけに静かだった。
辺りを見回しても、出店や人の行列は見られなかった。
暗闇の中、遠くに明かりが見えた。

明かりに近づくにつれ、囃子の音が大きくなってきた。
神楽が踊られている舞台までたどり着き、見上げると、美しい衣装をまとった女性が二人、囃子に合わせて一心不乱に踊っていた。

私と妻は、初めて見る神楽に圧倒され、暫くの間、呆然と見続けていた。
「見に来たんだね」
誰かが私の肩を叩いた。
振り向くと、宿の食堂で会った、あの男性だった。
残念なことに、この男性達の踊りはもう終わっていた。
しかし、もう直ぐ、この男性の師匠でもある、素晴らしい踊り手が登場すると教えてくれた。
そして、「こんな脇で見てないで、畳に上がって見なさい」と笑顔で観覧席を指差した。
私達は、村人に混ざって観覧席へ座った。
暫くして、その師匠が現れた。
老人のお面を被り、深い紺の衣装をまとって登場すると、ゆっくりと踊り始めた。
舞の名は「翁舞(おきなまい)」というらしい。
写真を撮ることも忘れていた。
体中の毛が逆立つような、そんな感覚が続いた。
気が付けば10:00PMを過ぎていた。

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先週、会社を休んで釣りに出掛けた。
とにかく、スレた魚ではなく、純朴な魚と遊びたかった。
前日から、釣り雑誌や東北の地図やらを広げては、あれこれ悩んだ。
しかし、川探しは なんとも楽しい時間だ。
あっという間に時間が過ぎてしまった。
そして、向かった先は檜枝岐川の支流、船〇川。

梅雨空の新緑は少し寂しげだった。
でも、竿を片手に渓に下り立つ時は、いつもと同じに気持ちが昂る。
釣り上がると、中型のイワナが2,3尾釣れた。
しかし、その後パッタリと反応が無くなった。
川縁の砂地に目をやると、「さっきまで居たよ!」と言わんばかりの足跡があった。
「平日なのに・・・」思わず舌打ちが出た。
「仕方がない、次の脱渓場所まで竿抜けを丁寧に探るか・・・」そう思いながら竿を振った。
暫くの間、魚信が途絶えた。
先行者を意識して、岩のエグレや巻き返しなどをしつこく狙った。
いつもなら そこそこで止めてしまうような小場所も丁寧に攻めてみる。
すると、巻き返しの渦の中から大きな影が現れて、沈みかけの毛鉤を奪い取る様に飲み込んだ。
ハッとして腕を上げた。
竿がグンッと大きく曲がり、魚が針を外そうとする動きが腕に伝わってくる。
なかなか寄ってこない。
一歩、二歩と引きずられる様に下った。
そして、なんとか足元に引き寄せ、左手にネットを持ったとき、「これは尺あるぞ!」と声が出ていた。

32cmだった。

アイシャドウを塗った様な目が美しかった。
暫くの間、両膝をついて、何枚も写真を撮った。
嬉しかった。

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「おかしいなぁ、今日は一日中晴れの予報だったのに・・・」
A川に向かう車中、民宿わらべの弐代目御主人が笑いながら言った。
そう、ついさっきまで気持ちのいい朝日が降り注いでいた。
なのに、私達がわらべに着いたとたん、雷が鳴り出し雨が降り始めたのだ。
「もしかして雨男(女)?」私と妻は顔を見合わせた。
「いやいや、そんなことは・・・・」と弐代目に言い訳をする私と妻。
緑が濃くなった森を眺めながら3人で笑い合った。
入渓ポイントへ到着すると、空が明るくなってきた。
良かった、雨男なんてレッテルはあまり嬉しいもんじゃない。
そんなことを思いながら、竿を振り始めた。
「あそこの奥に居ますよ!」
弐代目の指し示す流れにフライを通してみる。
すると、流れの中から魚が現れ、ゆっくりとフライを咥えた。

う〜ん、開始早々のHIT!嬉しい。

弐代目の的確なアドバイスのお陰で、妻にも次々に当たりが。
こうやって3人で釣をする一時、実に楽しい時間だ。
そして、弐代目のポイントの振り分け方がとても助かる。
「ここは旦那さんどうぞ!奥さんは私と一緒に振りやすいポイントへ行きましょう。」
という具合だ。
少し申し訳ない気持ちもあり、「Sさん(弐代目)もやってくださいね」と言ってみるのだが、何時もガイドに徹してくれる。
だから、結局甘えてしまうのだ。
そんな有難いガイドのお陰で、今日も遠野の元気な渓魚達と出逢っていく。

尺物かと思わせるほど竿を曲げてくれたイワナ。

巻き返しで気持ちよく出てくれたイワナ。
頭の大きさが際立ちます。

木陰で一服。
28cm程のイワナが3匹、立て続けに遊んでくれた。
どれも、ゆったりとフライを咥えてくれた。
らしきポイントを綺麗に流せば、気持ちよく渓魚が出てくれる。
これが遠野に通う理由だと再確認する。
その後、大きな堰堤まで釣り上がり、数匹のイワナと遊んだ。
大物は出なかったが大満足だった。

夕方前にT倉川へ移動した。
先行者がいたようで、釣果には恵まれなかった。
でも、この渓は癒される。

倒木の下に赤い蛙がチョコンと座っていた。
数センチのところまで近づいても逃げずにこっちを見ている。
「今日は先行者が居るぞ」と言っている様に思えた。
7:30PM、民宿わらべ に入った。

ビールを飲みながら美味しい夕食。
そして、宿の皆さんや釣り客の方との楽しい会話。
これも、遠野に通ってしまう大きな理由だ。
不意に、釣り客の方から「渓児さん」と呼ばれた。
思わず、ドキっとした。
「今日、渓児さんが来てると弐代目さんから聞きました。いつもブログ見てますよ!」と、優しい笑顔と口調で話しかけられた。
初めてのことなので、なんて答えていいのやら。
「あ、有難う御座います。なんだか恥ずかしいです。」と答えるのがやっとだった。
嬉しいような、くすぐったい気分になった。
その方は、「定年したらFF三昧の生活を送りたい」、「FFは本当に良い趣味だと思う」と言っていた。
その言葉に、私も心の底から共感した。
楽しく幸せな時間が流れた。
翌日

宿の近くのT川へ入った。
天気も良く、気持ちの良い渓だった。

20〜25cmがアベレージだったが、魚影が濃く、飽きることはなかった。
午前中で釣を止める予定だったが、あまりに反応が良いので2:00PMまで粘ってしまった。
帰り道、道の駅で遠野饅頭をお土産に買った。
また、産直の野菜や、りんごジュース、それに手作りのヨモギ餅も買った。
このヨモギ餅を、妻と二人して頬張りながら帰るのが最近のお決まりだ。
車窓から見える遠野の景色と、ヨモギの香りが素敵だった。
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ここのところブログを書くのがすっかり億劫になっていた。
以前は、釣から帰ってくると、真っ先にパソコンにかじりついていたんだが・・・
気が付けば幾つもの釣行を書いていない。
これはいかん、思い出が薄れる前に、少しでも書いておかないと。
<先ずは6月6日 山形県 最上S川>
小雨の中、C&R区間で思う存分ヤマメと遊んだ。
アベレージは20〜25cmだったが、体高のある綺麗な魚ばかりだった。

<6月13日 福島県 T沼川>
9:00AM に到着。
流石に人気河川、いたる所に釣り人らしき車が停めてある。
先行者を避けるため支流に潜り込んだ。

しかし、渓魚の反応は今ひとつ・・・
でも、渓相が素晴らしかったせいか、気分は晴れやかだった。
夕方、本流に戻ってみる。
先行者の足跡が随分有るが気にせず釣り上がる。
すると、意外にもヤマメが2尾、イワナが4尾もつれた。

28cmのイワナも飛び出してくれた。
この日のイブニングは最高だった。
<6月14日 山梨県 T和川>
初めて訪れる渓だったので、勝手が分からず随分歩いた。

散々山の中を彷徨ったが、結局は車止めの近くで良い場所を見つけた。
イブニングは、ちょっとしたお祭り状態になった。

東京に近い渓だけあって、結構スレた魚達だった。
<6月20日 長野県 SS川>
ON AIRさんのコメントにあった「SS」を頼りに地図で探したこの川。
草冠の漢字の川だけど・・・合ってるかな?
先ずは、上流へ入ってみた。

久しぶりに妻の後ろについて釣をした。
気持ちのいい渓相だった。

早速、妻が可愛いイワナをキャッチ。
なにやら、ヤマトイワナの気配がします。
午後は中流域に移動。
川幅があり、思う存分ラインを出して遊びました。
そして、イブニング・・・

出ましたジャスト30cm!
今シーズン初!嬉しい!!

しかも、良く見るとヤマトだった!
いっぱい子孫を残してくれよ。
豊かな自然、そして、ON AIRさんに感謝する一日だった。
来週は、今シーズン2度目となる岩手への弾丸釣行。
楽しみだ。
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